2011年08月25日

【書評】『A Stolen Life』 - 18年間の拉致監禁から生還した女性の告白

【レビュー】Jaycee Dugard著 A Stolen Life ★★★★★

今年7月に出版されたばかりの新刊だ。多分まだ和訳は出ていない。かなりショッキングなドキュメントだ。11歳の時に誘拐され、そのまま18年間監禁された著者の体験を、自身の言葉で語っている。アメリカで一時期大騒ぎになったので、ニュースとかで見た人もいるかも知れない。



通学途中に拉致された著者のジェイシーは、2009年8月に救出されるまでの18年間、誘拐犯の夫婦に監禁されたそうだ。誘拐犯のフィリップという男は、性的虐待による収監歴があり、11歳で拉致されたジェイシーは、当初手錠をかけられ物置小屋に監禁され、フィリップの性的奴隷として虐待を受け続けた。やがて誘拐犯の子供を出産し、子供を守りながら救出されるまでの長い年月を過酷な状況の中で生き延びてきた。11歳といえば小学校の5年生か6年生くらいだろう。世間に対する十分な知識もなければ、セックスの知識も持たない子供だったジェイシーの抱いた恐怖や絶望は想像もつかない。

救出された時のニュースは、今でもネットで検索するとすぐに見つかる。つい2年ほど前のことだ。救出からわずか2年で、自らの言葉でその痛ましい体験を語った著者の勇気と自立心には敬服する。言葉の端々に、まだちょっと無理をしているんじゃないかと気遣われる部分はあるが、全体的に自分をしっかり持っていて、精神的な強さを感じる。また、11歳で拉致されて以来、公的な教育を受けてなかったにしてはしっかりした文章で、著者の天性の知性が感じられる。

最初からずーっとショッキングなエピソードが連続するので、最初のうちはちょっと読み進めるのが辛いと感じる人もいるかも知れない。拉致から十数年後、ジェイシーは偶然自分の死亡を報じるニュース番組を見たそうだ。たまたま同じ地域で連続婦女殺人事件があって、その犯人が長いこと行方不明のジェイシーも殺害したのじゃないかとする報道だったそうだが、自分の死を伝えるニュースを見るというのはどういう気分だろう。想像するに余りある。

本の後半は、救出されてからいろんなセラピーを受け、少しずつ自分を取り戻し、家族や昔の友人とのつながりを構築しなおしていく過程が綴られている。心温まるエピソードが続き、ほっと一息つける。ジェイシーの幾つかの言葉は印象的だ。「世の中、そんなにひどい場所でもない」とか「起こってしまったことは変えられないから、もう気にしない。未来に向って生きるんだ」など、前向きな言葉には勇気づけられる。

この本の出版にあたり、ジェイシー自身がABCのインタビューに答えているビデオクリップがある。この本を読んだ人には、是非あわせて見て欲しい。

ABCのインタビュー:Jaycee Dugard Interview: A Story of Survival


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posted by Fion at 08:48 | Comment(1) | TrackBack(0) | 読書感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月22日

『Outlaw』を読んだ

【レビュー】Angus Donald著 『Outlaw』 ★★★★★

ロビン・フッドといえば、大抵の人は名前くらい知っているくらいの有名人だが、詳しくはよく知らないという感じじゃないだろうか。Augus DonaldのOutlawは、ロビン・フッドの伝説を題材にした歴史ファンタジーだ。

著者自身も巻末で述べているが、ロビン・フッドは実在の人物だったかどうかよくわからない。12〜14世紀頃のイギリスに伝わる伝説上の人物といった方がいいのかもしれない。諸説伝わっているが、バクッというと金持ちから盗んだ金品を貧しい人々に分け与えるという、言ってみればイギリス版ねずみ小僧のような義賊というのが一般的なイメージだろう。



この物語は、ねずみ小僧的義賊というよりは、様々な理由で社会から脱落した無法者たちをまとめ上げ、無体な領主に対抗する山賊の親分としてロビン・フッドが描かれている。とはいえ主人公はロビン・フッドではなく、ロビンに忠誠を誓った少年アランが成長していく物語だ。時代設定は12世紀初頭になっていて、ちょうどケン・フォレットの『大聖堂』(Pillars of the Earth)と似たような時期だ。当時のイギリスの社会の仕組みや人々の暮らしぶりが目に浮かぶようだ。

物語は割と単純で、圧政により民衆を苦しめる悪代官に対してロビン・フッドが反乱を起こす。絶体絶命の危機に陥りながらも、危機一髪のところで強力な援軍を得て、最後には正義の味方が勝つといった、時代劇の定番だ。騎馬と歩兵と、弓矢や槍、刀などで繰り広げられる戦闘シーンは、自ずと陣形や戦略が限られるので、日本の戦記ものとも通じる所がある。時代考証的にツッコミどころはいろいろありそうだが、小難しいことは言わずに純粋に楽しむのが正しいだろう。

時代物ならではの古臭い語彙はあるものの、現代語で書かれた英語は平易でリズム感があり読みやすい。気分転換用エンタテインメントとしてはお勧めだ。

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posted by Fion at 13:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月30日

Animal's Peopleを読んだ

【レビュー】Indra Sinha著 Animal's People ★★★★★

いろんな意味で型破りの小説だ。邦訳も出ているみたいだし、結構有名な本のようだ。いろんな賞も取っている。主人公はインド人の19歳の若者で、赤ん坊の頃に起こった化学工場の爆発事故で両親を失い、自らも後遺症で立つことができず、四足で歩いている。この事故により土壌や水が汚染され、多くの人達が健康を害し苦しんでいるのだが、そんな中でも四足で歩く彼は「動物」と蔑まれ、スラム街であさった残飯を野良犬と奪いあって生きてきた。やがてこの地に移り住んできた市民運動家ザファーとともに、保障を求めて事故を起こしたアメリカ企業相手に闘いを始める。

【魅力的なキャラクターと語り口】

あらすじだけ見ると、なんとも悲惨で重苦しい話のように見えるが、実のところ非常に爽快な物語だ。主人公の若者は、自ら誇りを持って「アニマル」と名乗る。彼の望みは2つだけ、真っ直ぐ立つことと、女の子とエッチすることだ。化学工場事故の取材に来たジャーナリスト相手に、自らの姿を見せ悲惨な物語をもっともらしく語って報酬を得るなど、したたかで逞しい。最貧の暮らしで教育も受けておらず、読み書きもできないアニマルだが、頭は良い。理屈をこねさせるとなかなか説得力がある。非常に魅力的なキャラクターだ。
物語中に「Jamisponding」という言葉が何度も登場する。辞書を引いても出ていないし、なんだかよくわからなかったが、読み進めるうちに謎が解けた。「Jamisponding」は「Jamis」+「Pond」+「ing」で、「ジャミス」と「ポンド」を続けて早口で言えば、インド訛りの「ジェームス・ボンド」になる。「スパイする」とか「様子を探る」といった意味で使われているが、これはアニマルの造語だ。耳から聴いただけで英語を覚えたことを思えば、すごい語学センスだ。こんな調子で彼は複数の言語を使いこなす。インドには時々こういう語学の天才がいる。


深刻で重い舞台設定だが、物語はアニマルの人間的成長を描いている。コミカルなシーンも多く、ティーンエージャーの若者らしい青春の悩みや、親代わりに育ててくれたフランス人老修道女への反抗心が愛情に変わっていく様子など、見所は多い。物語の全編を通して、仲良くなったジャーナリスト相手にアニマルが語るという形を取っていて、ユニークだ。読みはじめのうちは面食らったが、際立った語学センスを持つアニマルが、自分の言葉で語る型破りな表現は、それだけでも十分楽しめる。
英語学習者には原語で読むのはあまりお勧めできないかもしれない。アニマルがテープレコーダーに向かってしゃべった内容を、そのまま原稿に起こしたという体裁を取っているので、文法もなにもあったもんじゃない。綴りも耳から聴いたとおりに表記されている単語があったり、フランス語やヒンズー語も頻繁に混じってくる。巻末にはヒンズー語の簡単な単語集が付いているくらいだ。

【物語の背景】

物語の舞台となるカウフプールという街自体は、実在のインドの都市だが、化学工場の爆発とは無関係の美しい場所だ。化学工場の爆発事故は、1984年のボパール化学工場爆発事故をモデルに描かれている。有害物質の流出により2万人もの犠牲者を出した上、土壌や水質汚染により今後何十年も周辺住民への健康被害が続くだろうという史上最悪の化学工場爆発事故だ。この小説で描かれているのと同様、ボパールの事故を引き起こしたアメリカの企業の責任者は、現地の法廷に姿を見せず、またアメリカを刺激したくないインド政府も逃げ腰で、住民の健康被害は長く放置されてきた。一部の和解金が被害者に支払われたものの、汚染は継続しているそうだ。なんだか、ボパールの顛末を読むと、東電の原発事故処理の不手際や政府の及び腰が重なって見える。

ボパール化学工場事故の詳細はこちら

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posted by Fion at 19:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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