ちょいと前に映画の宣伝をやたら見かけたが、まだ映画は見ていない。とはいえ野村萬斎が「のぼう様」を演じたくらいのことは知っている。作品で描かれている「のぼう様」と野村萬斎のイメージがどうも結びつかないが、あれだけの名優だからきっとうまく演じているんだろう。
そんなわけで本を読んだ印象だけを語ると、読後にほとんど何も残らない。確かに成田長親は戦国時代を小説にするときに光を当てるには異色な人物かもしれないが、脇を固める登場人物も含めて人物描写が浅く、その魅力が描きこまれていない。多少面白く書かれているのは石田光成くらいだが、これもこれまでさんざん語られてきた光成像のステレオタイプを過度に強調した程度の書きっぷりだ。
忍城攻めのエピソード自体はちょっと面白い話なので、描きようによってはもっと楽しめる作品になっただろうに、もったいないことだと思った。というわけで歴史小説のヘビーリーダとしては星一つの判定にするところだが、そこそこヒットした作品を早いタイミングで廉価に電子書籍化してくれたところに敬意を表して、もう一つ星を進呈しよう。