2011年06月30日

Animal's Peopleを読んだ

【レビュー】Indra Sinha著 Animal's People ★★★★★

いろんな意味で型破りの小説だ。邦訳も出ているみたいだし、結構有名な本のようだ。いろんな賞も取っている。主人公はインド人の19歳の若者で、赤ん坊の頃に起こった化学工場の爆発事故で両親を失い、自らも後遺症で立つことができず、四足で歩いている。この事故により土壌や水が汚染され、多くの人達が健康を害し苦しんでいるのだが、そんな中でも四足で歩く彼は「動物」と蔑まれ、スラム街であさった残飯を野良犬と奪いあって生きてきた。やがてこの地に移り住んできた市民運動家ザファーとともに、保障を求めて事故を起こしたアメリカ企業相手に闘いを始める。

【魅力的なキャラクターと語り口】

あらすじだけ見ると、なんとも悲惨で重苦しい話のように見えるが、実のところ非常に爽快な物語だ。主人公の若者は、自ら誇りを持って「アニマル」と名乗る。彼の望みは2つだけ、真っ直ぐ立つことと、女の子とエッチすることだ。化学工場事故の取材に来たジャーナリスト相手に、自らの姿を見せ悲惨な物語をもっともらしく語って報酬を得るなど、したたかで逞しい。最貧の暮らしで教育も受けておらず、読み書きもできないアニマルだが、頭は良い。理屈をこねさせるとなかなか説得力がある。非常に魅力的なキャラクターだ。
物語中に「Jamisponding」という言葉が何度も登場する。辞書を引いても出ていないし、なんだかよくわからなかったが、読み進めるうちに謎が解けた。「Jamisponding」は「Jamis」+「Pond」+「ing」で、「ジャミス」と「ポンド」を続けて早口で言えば、インド訛りの「ジェームス・ボンド」になる。「スパイする」とか「様子を探る」といった意味で使われているが、これはアニマルの造語だ。耳から聴いただけで英語を覚えたことを思えば、すごい語学センスだ。こんな調子で彼は複数の言語を使いこなす。インドには時々こういう語学の天才がいる。


深刻で重い舞台設定だが、物語はアニマルの人間的成長を描いている。コミカルなシーンも多く、ティーンエージャーの若者らしい青春の悩みや、親代わりに育ててくれたフランス人老修道女への反抗心が愛情に変わっていく様子など、見所は多い。物語の全編を通して、仲良くなったジャーナリスト相手にアニマルが語るという形を取っていて、ユニークだ。読みはじめのうちは面食らったが、際立った語学センスを持つアニマルが、自分の言葉で語る型破りな表現は、それだけでも十分楽しめる。
英語学習者には原語で読むのはあまりお勧めできないかもしれない。アニマルがテープレコーダーに向かってしゃべった内容を、そのまま原稿に起こしたという体裁を取っているので、文法もなにもあったもんじゃない。綴りも耳から聴いたとおりに表記されている単語があったり、フランス語やヒンズー語も頻繁に混じってくる。巻末にはヒンズー語の簡単な単語集が付いているくらいだ。

【物語の背景】

物語の舞台となるカウフプールという街自体は、実在のインドの都市だが、化学工場の爆発とは無関係の美しい場所だ。化学工場の爆発事故は、1984年のボパール化学工場爆発事故をモデルに描かれている。有害物質の流出により2万人もの犠牲者を出した上、土壌や水質汚染により今後何十年も周辺住民への健康被害が続くだろうという史上最悪の化学工場爆発事故だ。この小説で描かれているのと同様、ボパールの事故を引き起こしたアメリカの企業の責任者は、現地の法廷に姿を見せず、またアメリカを刺激したくないインド政府も逃げ腰で、住民の健康被害は長く放置されてきた。一部の和解金が被害者に支払われたものの、汚染は継続しているそうだ。なんだか、ボパールの顛末を読むと、東電の原発事故処理の不手際や政府の及び腰が重なって見える。

ボパール化学工場事故の詳細はこちら

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posted by Fion at 19:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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