英語の世界でも、端末自体の性能や嗜好から、サービス全体へ注目が移りつつあるようだ。日本語という非関税障壁に守られている(?)日本市場では、電子書籍ビジネスはまだまだこれからだが、海外の動向は日本の未来を占う指針になりうる。
iPadの登場で、端末としてのKindleが大きく市場シェアを落としたのは事実だ。実際それまで市場をほぼ独占していたのが、iPadにだいぶ食われてきているそうだ。その割にはNookやSony Readerなど、Kindleと類似の読書専用端末は、そこまでシェアを伸ばせていない。
もう一つ注目すべきことは、アメリカでは多くのiPadユーザが、iPadネイティブのiBookではなく、iPad用のKindleアプリで本を読んでいるらしいことだ。統計データ等はないが、iBookは使わずにKindleアプリで本を読んでいるというiPadオーナーのブログや書き込みをよく見る。一方で、iBookが使いにくいとか、同じ本なのにKindleより高いとか、iBookの品揃えが少ないなどの不評もかなり目立つ。
《端末以外の付加価値》
AmazonがつくりあげたKindleと電子書籍の商売が完璧とは言わないが、よそと比べるとなかなか練れている。まず本を買う手続きが簡単で良い。最初に端末やクレジットカードの登録などを一度やっておけば、次回以降はクリックひとつで、数分のうちに本が手元の端末に届く。Kindleのブラウザでも本を買えるから、パソコンを起動する必要もない。オンラインショップで買い物が出来る程度のITスキルがあれば、フォーマットの変換やパソコン経由の同期など、余分な手間やスキルは不要だ。
本の品揃えも、電子書籍を扱う本屋としてはかなりのものだ。正確な数はわからないが、AmazonのKindle売り場には、「75万タイトル以上の品揃え」と威張っている。12月9日のINVESTOPEDIAの記事によると、Amazonが63万タイトル、Barns & Nobleが16万タイトル、AppleのiBook Storeが3万タイトルだそうだ。最近始まったGoogle eBookstoreは3万タイトルでスタートする。各社それぞれ品揃えを充実していくんだろうけど、Amazonは現状圧倒的だ。これだけあれば、読みたい本はだいたい見つかる。
本の値段についてはいろいろ議論はあるだろうが、Amazonは時々電子書籍の無料キャンペーンをやったり、値引販売をしたりする。定価で比べても、他の本屋より高いことは滅多にない。
本を読んだり買ったりする以外にも、ユーザが便利に使える工夫がいろいろある。以前このブログでも紹介したが、Kindleのユーザー専用サイトはかなり便利だ。Amazonが最大のライバルiPadも含めて、パソコンやAndroidなど様々な端末用にKindleアプリを無料配布したのも大きい。端末としてのKindleが気に入らないユーザは、好きな端末にKindleアプリをインストールして読書を楽しむことができる。
端末の性能的にはほぼ変わらないNookやSony Readerが、Kindleの市場に食い込めていないのは、ここらへんにも理由があるだろう。
アメリカのサイトではあまり言及されることはないが、アメリカ国外のユーザにとっては、Kindleがほとんど世界中で使えるというのもポイントが高い。多少の制約はあるものの、Amazonは国外のユーザにも本を売る。Barns & Nobleは、最初は国外への販売はやっていなかったし、Google eBookstoreにいたってはユーザのIPアドレスでアクセス制限さえする。
《ビジネスモデルの転換 - というより回帰》
Amazonは端末としてのKindleに見切りをつけたわけではないだろうが、少なくとも、端末を売ることに執着することをやめたということは言えるだろう。そもそもが本屋で、圧倒的なコンテンツや、便利な配信システムを持っていることがAmazonの強みだ。端末を大幅に値下げし、他端末用のKindleアプリを無料配布したのはそういうことだろう。その結果、端末のシェアを大幅に下げたとしても、本が売れれば元は取れる。
iPadやSony Readerでは、このビジネスモデルは成り立たない。iBookアプリをWindowsパソコン用やKindle用に無料配布したとしても、それほど流行るとは思えない。つまり、Appleは、少なくとも今はまだ「端末を売る」という宿命を負っている。たくさんのアプリやコンテンツは、端末をより魅力的に見せる演出としての位置づけだ。電子書籍は、そうした数ある「お膳立て」のひとつに過ぎない。
Sony Readerに至っては、何をやりたいのかイマイチわからない。端末を売りたいのなら、Sony Readerとウォークマンあたりを一緒にして、Sonyらしいおしゃれな仕掛けを仕込んで、世のSony信者に訴えかけた方がよほど売れるだろう。(それじゃまるでiPodだ)かといって、Amazonのようにコンテンツビジネスに傾倒することもできそうもない。自前で売るほどのコンテンツや配信システムが揃えられるのなら、シャープのXMDFに追従することもなかろう。
ビジネス戦略分析は専門家に任せるとして、ユーザとしては手軽に手間をかけずに本が読めればいいわけで、端末はともかくとして、英語の電子書籍を買うなら今のところAmazonが一番魅力的だ。日本で電子書籍端末や電子書籍を売る会社は、この辺を考えて欲しいものだ。
参照記事:
Do e-Book Readers prefer the iPad? Or is the survey off base? | Good E-Reader Blog - Electronic Reader and Tablet PC News(2010年12月10日)
What's In The E-Book Business For Google? | INVESTOPEDIA(2010年12月9日)
関連記事:
キンドルのユーザ専用サイト | Fionの与太話(2010年11月15日)
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